「 Cutie & The Boxer 葛藤編 」
なかなかハードな出だしの篠原夫妻。当時を振り返り、
乃り子さんは言います。
「 アメリカで移民として暮らすということは、
親も兄弟も誰もいない
離れ小島に自分たちだけ。
どんなにひどい相手でも、
そこで愛し合うしかないのよ。」
‥…。
恋する時間が過ぎれば、
残ったのは、二人のアーティスト。
でもその関係は師匠と弟子。天才とそのアシスタント。
そもそも有司男さん。
ロッフェラー財団の奨学金を受け、鳴り物入りの渡米でした。
乃り子さんは、なんだかんだと色々ありアカデミックな教育は一切なし。
乃り子さんは言います。
「 初めから、21歳も違うし、
在米日本社会は彼を大家と扱うし、
私は萎縮してしまい、
全然自信が持てなかった。」
‥…。
しかし、こうも言いました。
「 有司男は少なからず、
若い私の才能にジェラシーを感じていたのではないかな。」
‥…。
日本では人気の有司男さん。ここアメリカでは作風が下品だと嫌われ、
作品はまったく売れません。コケ過ぎて自信喪失。
あげく呑んだくれ。
対して何んにも、持ってない乃りこさん。
細々と、でも確実に現地アーチストに評価されつつありました。
「 あなたの作品には
ストーリーがある。」
不思議です。彼女の絵。
すっと入って、心をつかみます。
そして誰とも違う。
そもそもこの映画を見るきっかけも、
彼女のイラストを見たからでした。
‥…。
そうして、ちまちま15年あまり。二人の関係が大きく変る事件が起こります。
立ち退きを迫られブルックリンへ引っ越しです。
いざ引っ越しとなると、交渉力とか決断力とか判断力とか‥…。
アート以外の要素が見えてきます。
‥…あれっ、
少し疑問を感じました。
「 若くて、自分がコントロールされてることに
気づかないうちは良かったんだけど、
だんだん成長していくと、
いつでも彼が100%正しいわけではない。
非常にぶっ壊れてるってことが見えてきた。」
Me!Me!Me!
全てを自分で支配したい。他人に影響を与えたい。
アメリカでは
「コントロール・フリーク」というらしい。
‥…。
頭の中でパズルのピースがはまるように、ごちゃごちゃしていた疑問が解けていく。
今までの彼女は、有司男さんの繰り返す作品へのダメ出しで、混乱しまくり、
自信喪失していました。
そんな中、私小説『ためいきの紐育』の出版、日本で初めての個展。
世間の評価が彼女に自信を与えていきます。
そうなると、いつしか自信は、不信感に変わります。
「 ‥…じゃあ、今まで
有司男が言ってきたことって、何なんだろう。」
気づいてしまうと、もう戻れません。
1995年 初めて有司男さんに言ったそうです。
「 やかましい、モヒカンおやじ。」
‥…じゃなくて、
「 私が絵を描いてるときには、
声を掛けないで。」
遅過ぎ‥…でも、感無量。
‥…。
この展開。
怖くなって‥…もとい、希望見えてきました。
ココが正念場。独り立ちには欠かせないプロセス。
二人の関係を続けていくために越えねばならない壁なのです。
‥…でも、越えないよ。
えっ、それじゃあ‥…。
「 ‥…ぶっ壊す。」
‥…マジで‥…、なノダ。